学会発表 |
アロニア果汁含有脂肪蓄積抑制物質の効果 |
山根拓也 |
第92回 日本生化学会大会 2019年9月18日~9月20日 |
要約 |
アロニアは北米原産の果実でポリフェノール含有量が多く、2型糖尿病をはじめとする様々な病気の予防や治療に効果があることが報告されています。これまでの研究で2型糖尿病・肥満モデルKK-Ayマウスにアロニア果汁を摂取させると、白色脂肪組織重量が減少することを見いだしています。本研究ではアロニア果汁中に含まれる脂肪蓄積抑制機能を有する化合物の同定を試みました。アロニア果汁を逆相クロマトグラフィーにて分離・分画し、得られた画分を3T3-L1 細胞に添加し脂肪蓄積を確認したところ、得られた5画分のうち2画分について脂肪蓄積の抑制が認められました。それらの画分についてさらに分離を行い、質量分析を行いました。また、一方の画分から分取した4ピークのうち2ピークがArrestin domain-containing 3 (Arrdc3) 遺伝子の発現を減少させました。これらのピークはフラボノイドの配糖体やカフェオイルキナ酸であることが明らかとなりました。以上の結果から、アロニア果汁の脂肪蓄積抑制効果は少なくとも2つの異なる物質による作用で起こっている可能性が高いと考えられました。 |
アロニアはブラックチョークベリーとも言われ、北米原産のバラ科に属する植物でその果実は黒紫色です。ロシアや東欧でさかんに栽培されていて、図1に示すようにポリフェノールが豊富に含まれていて、その中で特にアントシアニン含有量が多いことが知られています。 |
図1 アロニア果汁含有成分 |
アロニアには健康に有益な効果があることが知られています。図2にはこれまでに主に報告されている健康効果について示しました。これまでの研究結果から、血糖値や血圧、中性脂肪などの上昇抑制効果や肥満改善効果などがあると考えられています。 |
図2 アロニア摂取による健康効果 |
本研究では、様々な効果が期待出来るアロニアの効果のうち、アロニア果汁の肥満改善効果に焦点をあて、実験を行ないました。アロニア摂取による肥満改善効果にはこれまでに次のような報告があります。 |
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●高フルクトース食とアロニア抽出物をオスのラットに同時に6週間摂取させると高フルクトース食のみを摂取させたラットと比較して、精巣上体周囲白色脂肪組織重量が減少する(Qin et al., British J. Nutr. 2012)。 ●高脂肪食とアロニアを4週間摂取したラットでは高脂肪食のみを摂取したラットと比較して、内臓脂肪重量が減少する(Takahashi et al., J. Oleo Sci. 2015)。 ●アロニア果汁(100 %)を4週間摂取した2型糖尿病・肥満モデルKKAyマウスでは、内臓脂肪および皮下脂肪重量が減少する(Yamane et al., JNB 2016)。 |
以前、私たちは高脂肪食摂取マウスにアロニア凍結乾燥物を与えると、その肝臓においてArrestin domain containing 3 (Arrdc3)遺伝子発現が減少することを報告しました。Arrdc3は図3に示す構造を持つタンパク質でβ-adrenergic receptorと相互作用しレセプターのリサイクリングを阻害することでエネルギー消費を抑制することが知られています。さらにArrdc3ノックアウトマウスの白色脂肪組織では脂肪分解が増加することが報告されていて、この遺伝子発現を抑制すると脂肪蓄積が減少するのではないかと考えられました。 |
図3 Arrestin domain containing 3 (Arrdc3)タンパク質の構造 |
アロニア果汁を5つの分画に分離し、それぞれの脂肪蓄積抑制効果を比較した結果を図4に示しました。Controlで染色された赤色が蓄積した脂肪ですが、分画1と3では赤色の染色が減少していることが明らかになりました。この結果はアロニア果汁から得られた分画1と3に脂肪蓄積抑制物質が存在することを示しています。 |
図4 アロニア果汁画分による脂肪蓄積抑制効果 |
そこで分画1と3に含まれる物質をさらに細かく分離しました(図5)。すると分画1には2つ、分画3には5つの物質が主に含まれていることが明らかとなりました。 |
図5 分画1と3の分離 |
これら7つのピークについてArrdc3発現の影響を見た結果、分画1では効果が無く、分画3の2つのピークにのみ発現抑制効果が認められました(図6)。 |
図6 Arrdc3発現抑制効果 |
質量分析の結果、分画1に含まれているのはカフェオイルキナ酸であり、Arrdc3発現抑制効果を持つピークに含まれているのはケルセチン配糖体であることが明らかとなりました。以上の結果から、アロニア果汁による脂肪蓄積抑制効果はArrdc3発現抑制を中心とした少なくとも2つの経路で起こっているのではないかと考えられました(図7)。 |
図7 まとめ |