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ヨーグルトに込めたブルガリア人の心
ヨーグルトは昔からブルガリア人の食生活において重要な役割を果たしてきた食品ですが、1989年以降、グローバル化の影響で、若年層を中心にヨーグルト離れが進んでいるのではないかと懸念されています。その一方で、特に1990年代後半以降、自然健康食への興味の高まりのなかで、ブルガリア菌やヨーグルトの健康への効果についてマスメディアやインターネット、治療施設などで多くの情報が提供されているため、胃腸の調整や成人病の予防のために日常的に食生活に取り入れるように努力する人が多くなっています。おなかがすいたときにおやつ感覚で食べる人や、食事後の嗜好品として塩味のヨーグルトドリンクを好む人も少なくなく、ダイエットで食事代わりに食べる人も大勢います。
一般的においしいと思われているヨーグルトとは、ブルガリア菌の働きにより、独自の風味があり、素朴な味で質感が濃厚なもです。ヨーグルト市場において、このようなヨーグルトの占有比率は90%と非常に高く、ブルガリア市場の最も大きな特徴として指摘されます。このヨーグルトに対して、酸乳を意味するブルガリア語の「キセロ・ムリャコ」という言葉が一般的です。果物入りや味のついたヨーグルトは、ブルガリア人にとって誇るべき本来の「キセロ・ムリャコ」ではありません。それは、あくまでもデザートのようなもので、「ヨッグルト」という言葉が使用されます。この言葉には本来のブルガリアのヨーグルト食文化への西欧食文化の影響に対する非難めいた態度や軽蔑的な意味合いが込められたいます。
しかし、「キセロ・ムリャコ」と「ヨッグルト」の差別化は、昔から存在しているわけではなく、1990年代、グローバル化が進んだポスト社会主義期において広がりはじめました。そのきっかけとは、同時期にフランスに本社を置く国際的大手食品製造業者ダノン社の参入です。本企業によるデザートタイプヨーグルトの新製品発売は、ブルガリアの人びとにとって、本来のブルガリアのヨーグルトと西欧から来たものを相対評価するうえでは、格好の機会となりました。そして、多くの人が言語のレベルでも素朴な味のヨーグルトと多様な味のヨーグルトを、「キセロ・ムリャコ」と「ヨッグルト」として差別化するようになりました。つまり、この言葉は本来のブルガリアのヨーグルト文化と、外来のヨーグルト文化とのライバル関係を表現しており、そこにはヨーグルトに対する国民的な自尊心が見て取れます。
さらに、ブルガリアでは、本土固有の乳酸菌により発酵されるヨーグルトが20世紀初頭にブルガリア人の長寿食としてヨーロッパ中に広まったと幅広く知られています。だからこそ、外来由来の「ヨッグルト」に対してブルガリア人は敏感なのです。
ヨーロッパに紹介されたブルガリアの伝統的なキセロ・ムリャコ