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健康に生きる手助けに |
川島 拓司(農学博士) |
【著者紹介】 著者は森永乳業の元常務取締役・生物科学研究所長であり、日本ビフィズス菌協会(日本腸内細菌学会に改称)の理事を長年勤めておられましが、昨年(2019年)惜しまれながら他界されました。著者はまた私の岐阜大学の先輩でもあり、ケフィアプラスの開発に当たってはビフィズス菌BB536の供給と技術的アドバイスを戴きました。茲に謹んで哀悼の意を表します。 中垣剛典 |
はじめに |
皆が健康に生きるという社会的に大きな課題を腸内菌叢の改善という視点から考え、腸内の腐敗を抑える乳酸菌、ビフィズス菌がその手助けになると指摘されたのは100年も前のことになります。以来これらの有用菌に関する研究が進み、現在では食品、医薬品への有用菌の応用が広く行きわたっています。その人に馴染みの深いこれらの菌は近年プロバイオティクス(probiotics)(後述)と称され、人の健康をより良い状態に改善し、維持するその自然の効果に一層の期待が高まっています。このような状況に関連した研究上の歴史的な事項あるいは最近の内外の動向などについて以下に順に概略を述べて、ケフィアプラスの効用を考えてみたいと思います。 |
ビフィズス菌の発見と腸炎患者の治療への応用 |
歴史はメチニコフの有名な不老長寿説の著書が発行される数年前にさかのぼることになります。大腸菌の発見でよく知られているエッシェリヒ(T.Escherich)は正常な乳児の腸内には純粋培養に近いほどに大腸菌がたくさん存在していると主張していました。その結論に疑問をもった小児科医のティシェ(H.Tissier)は、細菌の染色性に関する観察の精度を高め、また嫌気培養での増殖性の有無を仔細に調べることにより、健康な母乳栄養児の腸内に優勢にいる菌はその染色性において大腸菌と類似しているところもあるが、菌形が分岐する特徴的な形状を示す菌であること、嫌気培養でよく増殖すること、また、正常な腸内菌叢のほぼ全てを占めており、下痢の場合には減少する菌であることを確認して、本菌をbacillus bifidus communis(ビフィズス菌)と命名し、最初の論文を発表しました(1899年)。そして、ティシェはそれまでの乳児の観察例を論文にまとめ、「乳幼児の腸内菌叢に関する研究(正常と病態)」と題して1900年に発表しました。 |
彼は糞便の顕微鏡観察に関する精度を高め、それまでは菌を2~3種程度識別するのが普通であったのを14種も区別することを可能にし、ビフィズス菌を発見しました。ビフィズス菌が多い母乳栄養児に関する観察の記録も仔細であります。「母乳栄養児は多くの時間を快活に過ごし、皮膚はバラ色で皮下脂肪層は弾力性に富み、弛んでおらず、その下の筋層は固い」、「糞便所見は特徴的で黄金色を呈し、柔かく容易にこわれる黄金塊は僅少の粘稠な黄緑色で濁った液体を含むが、不快臭はなく、排便に際して悪臭ガスの排出を伴わない。反応は中性または微酸性である。」、「母乳栄養児は極くまれにしか発症せず、消化器障害に対して特別な抵抗性を示すようである。」、「糞便はときに悪臭を呈し、ガス発生を伴うが、発熱はなく、一般状態はそれほど悪くはない。体重に変化はなく、再発はまれで、重症例では死亡することはまれで、回復するのが常である」。 |
他方、人工栄養児の状態は、母乳栄養児の状態に比べて悪く、消化器障害はより頻繁に発生し、重篤になることが多く、改善しても再発することが多いとティシェは述べています。 |
このように母乳栄養児と人工栄養児は一般状態において違うことに加え、糞便菌叢においても明らかな違いがあり、健康な母乳栄養児では菌叢のほぼ100%をビフィズス菌が占め、疾病時においてはその比率が低下するビフィズス菌数の変動にティシェはさらに関心を深め、腸炎患者に次のような治療を試みてその意義を確かめました。それは腸内の腐敗が起こり難く、乳酸菌やビフィズス菌が腸内で増殖し易いように蛋白質を減らし、炭水化物を多くした食事箋を考え、それに乳酸菌あるいは乳酸菌とビフィズス菌を投与する治療法であります。小児及び成人の腸炎患者にそれらを投与し、病原菌が減り、乳酸菌やビフィズス菌が増えて完治した臨床試験成績が得られたことで、それらを「腸内フローラ(菌叢)変換法による腸内感染の治療」と題して1906年に発表しました。 |
この論文の結びにおいてティシェは「この治療法は全く無害である。治療期間が少々長すぎるかもしれないが、今後はより早く、より効果的にこの治療法を施すことが可能になると期待している。この治療法は大いに社会貢献することになると思われる。」(7)と述べています。チフス、赤痢、コレラなどの流行は珍しくなく、乳児死亡率の高いことが社会的に問題になっていた時代に化学薬剤とは違って副作用のない安全な治療法として腸内菌叢変換法を考えていたものと思われます。 |
発酵乳の飲用による腸内腐敗の改善に託したメチニコフの想いと当時の社会的背景 |
山野、河川の工事に行き過ぎがあったり、人工的につくられた化学物質が生活環境に過剰に持込まれたりして、それらがややもすると人の生命を脅かす悪い側面となって現れてきています。この生活を取りまく体外環境の破壊に関する警鐘から、体内の環境問題、すなわち内なる腸内環境の改善、向上の意義をおのずと考えさせられます。 |
体外の環境破壊に対しては、その場からの避難という救済策があります。しかし、腸管という内なる環境の破壊に対してはそれができないだけに、普段からの腸内環境の保全はないがしろにできません。それ故に終生つき合わなければならない腸内菌叢の構成を良くするように日常努力することが重要であり、健康を維持する上においてそれが必要という認識を深め、その一助として乳酸菌、ビフィズス菌が常時腸内の優勢菌として存在するように食生活を心がけることは長い人生において決して無駄とはならないといえましょう。 |
メチニコフ(E.Metchnikoff)はこの腸内環境のうち、特に大腸は不消化物や剥離した粘膜細胞成分が溜まり、腐敗を起し易い部分であって、それが健康を害し、老衰を早めている原因だと指摘し、発酵乳や乳酸菌の飲用を勧めました。腸内の腐敗を抑えることにより、健康な長寿をまっとうできるであろうと説いた100年前のその不老長寿説は有名であります。その著書においてメチニコフは人と乳酸菌とは古くから自然に共生の関係にあって、腸内の腐敗を抑制する効果が生まれていると述べています。それは乳酸菌が人の消化管中に住むことに馴れ、その乳酸菌は消化管内にある糖物質を利用して増殖し、殺菌作用をもつ物質をつくって、宿主に恩返しをしているというのです。また、人は発酵乳ケフィア、野菜の漬物類を食べているので、遠いむかしから消化管の中に多量の乳酸菌を取り入れていたことにより全然無意識に腸内の腐敗の有害な結果を治療してきたというのです。 |
健康で長生きするために発酵乳・乳酸菌の飲用をすすめたメチニコフでありましたが、それには当時の暗い社会的な一面を好転させたいという彼の人間的な熱い想いがあったといえましょう。 |
当時は今日に比べれば相当に非衛生的な生活環境であったと考えられ、各種の伝染病をはじめとする諸疾患が多くの人達を苦しめた時代でありました。とくに弱い老人の処遇が社会的に大きな問題であった様子が読み取れます。19世紀末においてさえ無用の老人は積極的に排除する主張が一部ではまかり通っていたようで、従って老人の自殺者が多く、これらの風調を是正するためにヨーロッパにおいては老人を保護する法律が制定されはじめたというのです。このような社会的背景があった当時、メチニコフは老衰に関する科学的な研究の必要性を説き、老衰を何らかの好ましい方向に転化させる方法に考えが及んでいったのであります。彼は大腸において腐敗が起こることから大腸無用論を主張したこともありましたが、発酵乳を飲用する習慣のある地域に健康な長寿者が多いことに着目し、乳酸菌を投与した動物試験、臨床試験で、腐敗が抑制される結果を得て、その有用性を主張しました。 |
さらに彼は一般の病気や老衰は衛生改善と治療の両方法によって絶滅させることが極めて大切なことであり、老衰者などを医学的に淘汰するというような説は人類の福祉に反するもので、今後顧みられなくなるといい、人間に天寿を全うさせ、老人には生活の長い間の経験を基に若い者たちに適切な忠告をしたり、重要な判断を示すことができるようにするための、あらゆる努力をする必要性を主張しています。そして、人類の生命を長くすることは絶対に有用だというのです。 |
このように見てくると、ティシェは医学者として患者の症状の推移を観察しながら、腸内菌叢改善の効果に関する明確な見通しと腸炎治療への応用の可能性及び将来における方法の改良を望みました。メチニコフは健康で長生きすることの重要性を考え、身近な発酵乳の飲用で健康な長寿が実現できるという夢を人々に与えました。両先達の想いは夫々に腸内菌叢の改善に関する研究の社会的意義を強調するものであったといえましょう。 |
仮説「腸内菌叢とからだとの関り合い」の先駆的意義 |
乳酸菌、ビフィズス菌などの有用菌に対して現在の定義に近い意味でプロバイオティクスという用語が使われたのは1974年であります。その15年前の1969年に光岡は仮説「腸内菌叢とからだとの関り合い」を発表しました。それは腸内菌叢を宿主と共生関係にある菌群と潜在的に病原性を有する菌群に分け、その構成比率が腸内菌叢の性状として表れること及びその構成バランスによって宿主の状態も影響されることを図式化したもので、判り易い仮説であります。これは本邦における当該領域の研究と製品の開発に明確な方向づけをした点で大きな意義があります。 |
20世紀の初頭から積み重ねられてきた腸内菌叢に関する数多くの研究業績を総括し、それに光岡が自ら行ってきた膨大な腸内菌叢の分類結果からメチニコフが提唱した説をより具体的に図に示されました。食品の機能性が話題となり、生活習慣病がクローズアップされ、特定保健用食品の制度化が進み、さらにプロバイオティクス、プレバイオティクスなどの機能性素材の有用性が評価されるようになり、それらの先駆けともいえる光岡の仮説提唱は高く評価されるものであります。そして、この菌叢内の各菌のバランスを有用菌が優勢な状態に改善し、維持することが健康の増進に良いとする考え方はプロバイオティクスの定義に受け継がれています。 |
薬剤の副作用問題から“内なる環境としての腸内菌叢”に関する研究の推進活動へ |
日本消化器病学会、日本細菌学会などにおいては、病態に関係のある腸内細菌が主要な研究対象として取上げられ、疾病の治療に大きな貢献をしてきました。これらの学会とは視点が異なり、通常時あるいは異常時の腸内菌叢の成り立ち及びその宿主とのかかわり合いに関する研究活動を推進する“財団法人 日本ビフィズス菌センター”が設立されましたのは1981年4月であります。 |
設立のきっかけは、社会的に大きな問題となりました化学薬剤の胃腸薬キノホルムの副作用で起こったスモン病の原因探索に参加されていた3人の先生〔中谷林太郎(医学)、田村善蔵(薬学)、光岡知足(農学)〕と一人の我が国ビフィズス菌研究の先駆者〔本間 道(医学)〕の4先生が化学薬剤による腸内環境の殺菌ということとは反対に、腸内有用菌を利用するという視点で腸内菌叢の問題を考えようとされたことにあります。その設立趣意書には、近年人類の生存に関る生活環境が問題の因子としてとり上げられつつあるとき、内なる環境としての腸内菌叢を忘れてはならないこと、そして広い意味で宿主と寄生体との関係を代表するものはビフィズス菌であり、ここに焦点を合せて、医学、薬学、農学の各分野の研究者が協力して学際的に研究の推進を図ることを目的とすることが掲げられています。その学会活動は産学の各領域から注目され、拡大しています。そこでは正常時、病態時の腸内菌叢の構成と有用菌投与による構成の改善及び生体防御能の向上などについて細菌学、免疫学の立場から科学的に研究された数多くの結果が報告されています。 |
日本医師会長であった故武見太郎先生が、生前、その設立のご挨拶で財団の事業について述べられた評「健康時の健康擁護のための細菌学」は真に当を得た適切な表現といえます。 |
プロバイオティクスの定義とその変遷 |
プロバイオティクス(probioticus)が抗生物質(antibiotics)に対比する概念を表す用語として最初に使用されたのは1965年であります。それを、現在の定義に近い意味で使用したのはパーカーであります(1974年)。彼は、腸内菌叢を構成する各菌は相乗的あるいは拮抗的な関係にあり、それに宿主の生理的要因が加わった中でバランスした状態にあること、腸内に有害な菌が侵入した場合は宿主の排除機構が働くが、それに菌叢中の有用菌が有害菌の増殖を抑え、その結果として有害菌に排除的に作用する宿主と腸内菌叢の相互依存の状態を考えてプロバイオティクスを「腸内菌叢のバランスに作用する菌及び生成物」と定義しました。その後にフラーは「腸内菌叢のバランスを改善することによって宿主動物に有益な効果をもたらす生きた微生物の飼料添加物」とプロバイオティクスを定義しました(1989年)。 |
関連の研究が進み、時を経てサルミネンはプロバイオティクスを「ヒトの健康に有益な効果を及ぼす生きた菌の食品添加物」と定義し、さらに「宿主の健康とその維持増進に有益な効果をもたらす微生物細胞調製物または微生物細胞の構成物」の如く生きた菌、さらには菌体構成物も含めるように定義しました(1999年)。生きた菌の整腸効果に加えて菌体の構成成分が腸管免疫の機能を活性化し、生体防御能を高めるなどの効果が知られるようになってプロバイオティクスとして評価される対象は拡大の傾向にあります。 |
ビフィズス菌との共生の始まりとその有用性 |
ここで腸内有用菌の代表といえるビフィズス菌との共生について触れましょう。 |
この菌は乳児の生後1週間目頃から、その腸内で数が最も多くなり、宿主との共生関係はこの時期から始まります。特に消化管の組織が未成熟な新生児期において、種々雑多の細菌が侵入してくる可能性が高い状況に対応しなければならない乳児は、母親が母乳中に分泌してくれた感染防御に有効な免疫グロブリンなどの成分、消化管組織の発達に役立つ成分などを利用して有害細菌の侵入を防ぎながら消化管を成熟した緻密な組織にしていきます。この母乳にはビフィズス菌の増殖を促す成分も含まれており、ティシェが記載しているように健康な母乳栄養児の糞便菌叢ではビフィズス菌が100%に近い最優勢菌となっています。 |
この消化管組織が発達する時期におけるビフィズス菌の役割は、母乳に7.5 %程 も含まれている乳糖の一部が大腸に流入してきたのを利用して酢酸や乳酸を生成し、腸内の pH を低い酸性状態に維持して有害菌の増殖を抑えていることの外に腸管粘膜に接着するなどの刺激によって、腸管を異物が進入できない防御組織として発達させることにも影響を与えています。これらは宿主とビフィズス菌との初期の共生関係の意義であります。消化管組織が未発達の無菌動物にビフィズス菌を投与し、腸内で増殖させると、その後に投与された病原性大腸菌の体内への侵入が阻止されます。その反対にビフィズス菌が増殖する前に病原性大腸菌が投与されると、大腸菌が腸管壁を通過して体内に入り、増殖するので動物は死にます。抗生物質による治療で腸内菌叢を構成する細菌が徹底的に排除された場合、腸壁から細菌が侵入する類似の状況が発生します。このような際にもビフィズス菌の投与で菌叢を早期に正常な状態に戻すことが有効であります。宿主とビフィズス菌との共生関係には進化の過程で相互に築きあげた重要な防御のメカニズムが自然に活かされているといえます。 |
離乳食が与えられる時期を経て普通の食事を摂る頃には、ビフィズス菌の増殖にとって有利な食事組成とはいえない状況になり、ビフィズス菌数を上回る他の嫌気性細菌が増えてきます。しかし宿主が健康であれば、腸内菌叢の培養で得られる全菌数中の10 %前後をビフィズス菌数が占めています。特にビフィズス菌が増殖し易い食品や発酵乳を継続して食べている場合、ビフィズス菌数の比率が30 %前後になることは十分に有り得ます。体調を崩したり、発病した際には腸内菌叢中のビフィズス菌の比率が減少し、回復が遅れます。このような状況ではビフィズス菌を投与して回復を手助けすることが考えられます。 |
肝臓の機能が低下している肝性脳症の患者では、腸内で腐敗細菌によってつくられた細胞に毒性のあるアンモニアなどが腸管から吸収されて血中に入り、肝臓で十分に解毒(分解)されることなく、脳に到達すると、脳細胞に有害な作用を及ぼします。朦朧とし、文字書き、識字能力が低下する脳症を引き起こし、介添えがなければ生活できない状態になります(高アンモニア血症)。このような患者にビフィズス菌入りのミルクを長期に与えて腸内菌叢の改善を進め、アンモニアの生成を抑えて高アンモニア血症による脳症を治すことに成功した臨床例は注目に値するものでした。その後、腸内でビフィズス菌を選択的によく増殖させるラクチュロースが開発され、医薬品としても承認されて高アンモニア血症に伴う脳症の改善に使用されています。肝性脳症の患者において介添えがなくても生活ができる劇的な回復が見られています。これらの例はビフィズス菌が腸内腐敗を抑制して好結果をもたらした端的な例であります。 |
このようにビフィズス菌を投与する動物試験、臨床試験が数多く積み重ねられて、整腸作用(便秘、下痢の改善、腸内腐敗の抑制)、感染防御作用(病原菌、ウイルスなどの感染防御)、免疫賦活作用(抗アレルギー作用、抗がん作用)などの有効性が明らかにされてきています。 |
一般的な傾向として加齢と共に免疫能の低下が進むことから、高齢者の場合感染症に罹りやすく、さらに重症になりやすいこと、また、肺結核の再発増加及び不顕性感染ウイルスによる罹患の増加を招いていることが指摘されています。これらのことからビフィズス菌の入ったヨーグルトの摂取で老人のインフルエンザウイルスによる罹患が有意に低下した試験の結果及び花粉症患者への投与試験で症状が改善している試験の結果などは宿主における免疫能の賦活あるいは改善に対してビフィズス菌が関与していることを示唆しています。腸内菌叢中でビフィズス菌を常に優勢に保ち、宿主とビフィズス菌との共生関係を効果的に維持することが重要であることをより明確に知る意味でこれらの研究がさらに深められることが期待されます。 |
ここでもう一度人の一生を考えてみましょう。乳児は腸管組織が未成熟で有害菌の作用を受け易い危険な時期を母乳という機能性に富んだ栄養物の力と腸管内に早々に棲みつき、優勢菌として増殖を続けてくれたビフィズス菌の助けを借りて無事に通り抜け、元気に育ちます。老齢者は上記の如く病原菌による感染を受け易くなります。しかも、この時期の腸内菌叢ではビフィズス菌数が減り、体に良くない細菌が増加する傾向が見られます。この状態を改善するために乳酸菌、ビフィズス菌を外から補給し、それらの有用菌が増殖し易い食事を摂るように心掛け、宿主とビフィズス菌との共生(相互扶助)のより良い関係を持続させることが必要といえましょう。 |
ケフィアプラスのこと |
乳酸菌利用食品“ケフィアプラス”には製品の説明書によると大きな特徴が2つあります。その1つは牛乳の発酵に使われている高活性のケフィア菌に腸内の有用菌であるアシドフィルス菌とビフィズス菌がプラスされていること、2つ目は粒の表面を胃では溶けず、腸で溶けるトウモロコシ由来の蛋白質で覆い、粒内の生きている有用菌が胃内を通過する間にその強い胃酸で死滅することなく腸に届くように工夫されていることであります。その1粒に含まれている有用菌の数は30億前後で、3粒摂れば発酵乳の約100mlに含まれている全菌数に相当する量の有用菌を摂取できることになります。 |
コーカサス地方で自家消費を目的に古くからつくられていた発酵乳の一種ケフィアはミルクに数種類の乳酸菌と酵母を植えて発酵させた食品であります。それらの菌はケフィアグレインと称される小塊を形成し、それが種菌としてミルクを発酵させる役割を果たしながら自然の形で植え継がれてきました。有用な乳酸菌はこのように自然に使われ、飲用されていたのであります。 |
他方、ケフィア菌にプラスされたアシドフィルス菌及びビフィズス菌は共に腸内の有用菌であり、特に後者のビフィズス菌は100種類以上にも及ぶ腸内菌の中では最も重要な有用菌としてこれまで述べてきたように早くから注目され、効用が研究されてきました。 |
これらのことから、ケフィア菌はその発酵乳が日々飲用されたことによって人の健康の維持に寄与してきました。ビフィズス菌は腸内の有用な常在菌として人の健康の改善、向上に貢献してきました。これらの有用菌が一緒に飲用できるケフィアプラスは宿主とビフィズス菌との共生関係を良好な状態に維持し、腸の調子を整える働きが期待できる製品といえましょう。 |
参考とした主な資料 |
1)乳幼児の腸内菌叢に関する研究(正常と病態) |
H. Tissier 著 藤原公策 訳 |
監修(財)日本ビフィズス菌センター |
発行(有)アイペック(東京) 2006年6月1日 |
2)長寿の研究 -楽観論者のエッセイ- |
E. Metchnikoff 著 平野威馬雄 訳 |
復刊編集責任 (財)日本ビフィズス菌センター |
発行(株)幸 書房(東京) 2006年6月15日 |
3)プロバイオティクス・プレバイオティクス・バイオジェニックス |
-腸内細菌の関りを中心としたその研究と意義- |
編集 光岡知足 監修 (財)日本ビフィズス菌センター |
発行 (財)日本ビフィズス菌センター (東京) 2006年6月1日 |
4)腸内細菌の話 |
光岡知足 著 |
発行 (株)岩波書店 (東京) 1988年4月10日 第16刷 |
5)母乳の栄養学 |
清澤 功 著 |
発行 金原出版(株)(東京) 1998年8月31日 |
6)加齢による免疫機構の変化と抑制性レセプター |
中村 晃、高井俊行、 生体の科学 56(6) : 639~645, 2005. |
7)ビフィズス菌Bifidobacterium longum BB536による免疫調節作用 |
清水金忠、小田巻俊孝、 |
Medical Science Digest 32(9) : 405~408, 2006 |
ケフィアニュース Volume13. Number 1.(November 1. 2006 )より転載 |