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世界一かんたんな酒造り
コラムニスト 立石 敏雄
【著者紹介】
1947年東京生まれ。コラムニスト、ライター。雑誌 『BRUTUS』の元編集者。俳句、篆刻、ゴルフ、フライフィッ シングなど趣味に生きる、人呼んで、原稿も書く遊び人。フ ァッション誌編集長の夫人と、猫のヒジカタクンと暮らす。 雑誌『pen』に食に関するコラム「笑う食卓」を連載中。
私は毎年、2月の寒の時季に餅米のどぶろくを造る。餅米を水に一晩浸けて、 蒸かして、冷まして、麹を混ぜてと、けっこう手間がかかってタイヘン。なもんで、 今年は怠けて、造らなかった。
今からでも遅くないっ、造ったらぁ、と周りからせっつかれながら、たまたま発酵 関係の本を読んでいたら、ケフィアは乳酒の代表と書いてあった。ほんとは酒なのかぁ。
コーカサス地方では、牛乳や山羊乳をアルコール発酵させて、乳酒として飲んでいる。ただし、アルコール度数は1度あるかないかの極々弱い酒だとか。微量 のアルコールは、血行を良くする薬みたいなもの。コーカサスが長寿で有名なのは、乳酒に含まれるアルコールのせいなのかもね。
ケフィア菌には乳酸菌とともに酵母が含まれている。乳酸菌発酵だけさせれば ヨーグルト様のケフィアだけど、続けて酵母で糖分をアルコール発酵させれば、 糖はアルコールと炭酸ガスに分解して、たしかに発泡性の酒ができる。
材料中の糖分の半量がアルコールに変わると酒造りの本には出ている。つま り、牛乳にそれなりの量の砂糖を加えて、ケフィアで発酵させれば、それなりの アルコール度数の酒ができる道理だ。 実験好きの私としては、やってみないわけにはいかなくなった。
ケフィアのうれしいところは、室温で発酵が起こることだ。つまり、牛乳に砂糖を溶かし込んで、ケフィア菌を加え、部屋に放置しておけば、勝手に酒が出来てし まう。世界一造るのがかんたんな酒というわけだ。
まず1リットルの牛乳に砂糖60gを加えたものを試した。寒い季節だったけど、 2日目には表面が固まり、スプーンで掻き回して、そのまま置いておいたら、3日目には煮すぎた豆腐のような泡が盛り上がり、目的の発泡乳酒が完成した。あ っけなかったね。技も何もいらない。
酒と言っても、できあがったのは、ほろ甘いドロドロし た飲み物。耳を澄ませば、たしかにアルコールが含ま れているのがわかる。酒飲みの私としては、頬が緩んでしまったね。それに、なんだかうまい。
餅米のどぶろくより、なんたって乳を発酵させた酒だから、タンパク質やアミノ酸が多いんだろうね、元気が出るような気がする。
次に砂糖の量を100g、120gとふやしてみた。理論上はアルコール度数が上がるはずだけど、あまり変わったようには思えなかったな。世の中、理論通りにはいかないものだ。
それはともかく、私が(うまいな)と思うのは、アルコール発酵が進みきらない、 乳酒になりかけのもの。うすら甘くて、でも微量のアルコールを含んでいる。この状態の乳酒が気に入っているんだけど、ケフィア菌は働き者らしく、途中で発酵をやめてくれない。時間とともにうすら甘さが消えてしまうのだ。テキトーなところで発酵をお休みするよう、ケフィア菌に伝えたいところだけど、微生物の言葉を知らないからね。ケフィア君に言ってきかせる良い方法はないものだろうか。
【編集注】
雑誌「pen」のコラム欄「笑う食卓」をご存知ですか?最近号に次のようなタイト ルのコラムが掲載されていました。
第125回 ヨーグルトだと思って食べていたら、酒だった。 pen No.150 2005.4/15 p127
第126回 牛乳で造る酒は、滋養たっぷり、濃厚でうまい。 pen No.151 2005.5/1 p139
ケフィアをヨーグルトととらえる方が多いけれど、著者の立石様は、ケフィアを乳酒として紹介して下さっているところが、実に新鮮です。
編者はホームページにケフィアシャンパンの作り方 (http://www.nakagaki.co.jp/2_7.html)を紹介しているのですが、なかなか普及していない。
それで嬉しくなって立石様にホームページに寄稿をお願いしましたところ、快く この一文を草して下さいました。
本文とともに、雑誌「pen」の「笑う食卓」のコラムも味読いただければ幸いで す。 中垣