Volume 30.Number 1(January 1.2024)
コーカサス地方のケフィア、スカンジナビア地方のヴィーリ、ブルガリアのヨーグルト、世界の三大伝統的発酵乳を家庭で発酵できるホームメイド・シリーズに、植物性ヨーグルトのスターターカルチャー“ノンデイリー PLANTA”が加わりました。
どこよりも充実した乳酸菌カルチャーの品揃え、それぞれの特徴は次の通りです。
ホームメイド・ケフィア:酵母と乳酸菌でつくるヨーグルトを超えたおいしさ。
ホームメイド・ヴィーリ:乳酸菌が作る食物繊維(EPS)による伸びるヨーグルト。
プロバイオティクスBIFIY:ビフィズス菌の生きているプロバイオティクスヨーグルト。
ノンデイリー PLANTA:植物性乳酸菌プランタルム菌で発酵、乳成分を含みません。
“ノンデイリー PLANTA”は、環境に配慮して動物性食品を避けている人や、牛乳アレルギーや乳糖不耐症、コレステロールの制限など健康上の理由から乳製品を摂取できない人々に、食事を楽しむ選択肢として開発した植物ベースのヨーグルトスターター(種菌)です。豆乳で発酵させると、滑らかな口当たりでおいしい植物性ヨーグルトをつくれます。
アルツハイマー病モデルマウスをY 字迷路に置くと動きがぎこちないが、アロニア果汁を摂取したアルツハイマー病モデルマウスは、正常なマウスに遜色ない行動ができるようになります。アルツハイマー病モデルマウスの脳にはアミロイドβが蓄積しているが、アロニア果汁を摂取したマウスの脳にはアミロイドβの蓄積が少ないこと、アロニア果汁にはアミロイド前駆体タンパク質を分解してアミロイドβをつくる酵素を阻害する物質があることがわかり、研究論文をドイツの学術誌に投稿して掲載されました。アルツハイマー病は認知症の最も一般的な原因です。最近、脳内からアミロイドβを除去する治療薬が認可されましたが、医薬による治療費が高額で患者の負担と国家の医療予算に対する負担も過大になります。私は食品によって予防できるなら負担が少なく、副作用の心配もないと考え、この研究に希望を持っています。
有限会社中垣技術士事務所
代表取締役 中垣剛典
近年、健康への関心が高まっており、多くの人々が食事療法や食品選択に注意を払っています。一部の人々は乳糖不耐症のために乳製品を摂取できなかったり、乳製品に含まれる脂肪やコレステロールを制限したいと考えています。そのため、乳製品を避けるノンデイリー(Non Dairy:非酪農)の需要が高まっています。また乳製品アレルギーは、一部の人々にとって深刻な健康問題です。ノンデイリーは乳製品を摂取せずに食事を楽しむための選択肢として重要です。
酪農には大量の水と飼料が必要で、牛の飼育には温室効果ガスの排出を伴います。環境への配慮から、持続可能なノンデイリーの需要が増加しています。ヴィーガンや植物ベースの食事は、環境への配慮や倫理的な理由から支持されており、これらの食事スタイルでは動物性の乳製品を避けることが一般的です。そのため代替品として植物ベースのノンデイリーの需要が高まっています。|
“ノンデイリー PLANTA”は、このような社会のニーズに応えるために開発した植物性ヨーグルトのスターターカルチャー(種菌)です。
1)PLANTAは、ノンデイリー(非酪農)です
乳酸菌の菌体は顕微鏡で見なければ見えないくらい小さくそのままでは取り扱いが難しいため、一般には乳酸菌にスキムミルクを加えて取り扱いをしやすくするとともに、乳酸菌数を規格化します。
PLANTAにはスキムミルクの代わりにマルトデキストリンを加えて、乳酸菌数を規格化しています。乳製品を使用していません.
2)PLANTAは、ミルクアレルゲンフリーです
PLANTAはイタリアの乳酸菌メーカーSACCOの植物ベース乳酸菌を使用しています。SACCOのテクニカルデータシート(技術資料)にはミルクアレルゲンフリーと記載しています。
3)PLANTAは、プランタルム菌で発酵します
PLANTAはヨーグルト発酵菌であるブルガリア菌(Lactbacillus bulgaricus)とサーモフィルス菌(Storeptococcus thermophirus)に、キャベツの漬物(ザワークラウト)やテーブルオリーブの発酵菌として使用されている植物由来の乳酸菌プランタルム菌(Lactiplantibacillus plantarum)を加えています。
菌の図鑑(ヤクルト中央研究所)には、プランタルム菌は次のように記載されています。
“ラクトバチルス プランタルム(分類見直しによって、現在はLactiplantibacillus属に分類されています)は、その名(Plant:プラント)の通り、植物由来の発酵物から主に分離されます。グラム陽性の桿菌で、15℃~45℃で生育します。耐塩性を持つことから、日本の漬物や韓国のキムチ、ドイツのザワークラウトなどの塩分濃度が高い漬物類の発酵に役立っていて、生成する乳酸によって糠床の腐敗も抑えます。近年、プランタルム菌の一部の菌株において免疫賦活作用なども報告されていて、新たな食品への応用研究も盛んに行われています。”
“ノンデイリー PLANTA”の商品名は、プランタルム菌に因んで植物性ヨーグルトを表しています。
4)PLANTAは、プロバイオティクスです
プロバイオティクスは、「適切な量で摂取すると宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義されています。FAO/WHO はヒトの消化管から分離された微生物のみをヒトにおけるプロバイオティクスとしての使用を推奨していましたが、近年、発酵食品から分離される微生物の中にヒトの健康に貢献している微生物の存在を示す研究論文が数多く発表されるようになり、発酵食品由来の乳酸菌もプロバイオティクスと認められました。
プランタルム菌は胃酸や胆汁酸に耐性があり、生きて大腸に達し、健康に貢献します。
プランタルム菌で発酵させる“ノンデイリー PLANTA”はプロバイオティクスです。
次節に、プロバイオティクスとして働くプランタルム菌に関する研究論文を紹介します。
プランタルム菌のプロバイオティクスとしての働き
左図は医学系文献のデータベースPubMedに登録されているプランタルム菌の文献の経年変化を示しています。近年、プランタルム菌の研究論文が急激に増えています。プランタルム菌は、現在最も研究されている乳酸菌のひとつです。以下に人を対象とした研究を紹介します。
1)プランタルム菌は、不安、うつ、不眠症の症状を軽減します
最近、さまざまなプロバイオティクスが、腸の恒常性を維持し、粘膜および全身の免疫を改善し、腸内微生物叢の代謝を調節することによって、ストレスを受けた人に対して効果的にストレスを調節して不安を解消する効果があることが報告されています。
多くの研究が、感情障害(不安やうつ病など)と腸内細菌叢の異常や腸内代謝変化との間に強い相関関係があることを報告しています。
さまざまな試験は、受験生に頻繁かつ重大な不安の原因となる可能性があります。 たとえば、中国統一大学院入学試験は、学部生にとって大学院および修士号を申請する重要な機会ですが、熾烈な競争で知られています。
Ruizhe Zhu等は、中国広西省の巴馬地域で伝統的に発酵しているもち米から分離したプランタルム菌(L.plantarum JYLP-326)を摂取すると、大学生の不安の解消に効果があったと報告しています。
中国統一大学院入学試験に直面している不安とうつ病を抱える60 人の生徒のうち、30 人がプランタルム菌を摂取するプロバイオティクス群として無作為に選び、 残りの30 人をプラセボ群とし、不安を感じていない30 人の学生を健康な対照群として割り当てました。各群の被験者は同年齢で、男性と女性の比率は 1:1 でした。
プロバイオティクス群には、プランタルム菌1.5 × 1010 CFU 含有する試供品を、プラセボ群にはマルトデキストリンのみの試供品を、1日2回、連続3週間、それぞれ2回の摂取の間に12時間の時間を空けて摂取するよう指示しました。
一方、対照群の学生は、通常のライフスタイルと食生活を維持するよう求められました。
不安、うつ、不眠の評価は、それぞれ次のスケールによって行われました。
不安:ハミルトン不安スケールを使用して不安症状を評価しました。
うつ:ハミルトンうつ病評価スケールを使用して、うつの症状を評価しました。
不眠:アテネ不眠症スケールを使用して、不眠症の症状を評価しました。
結果は図1にみるとおり、プランタルム菌の摂取が、試験に不安を抱える大学生の不安、うつ、不眠症を軽減することがわかりました。
2)プランタルム菌は、肥満を解消する可能性があります
肥満は過剰な脂肪の蓄積が原因であり、心血管疾患、糖尿病、がんなどのリスクを高める複雑な慢性病状です。肥満の治療は、食事、運動、行動の生活習慣の見直しで始まりますが、薬による治療が必要になることもあります。しかし新しく開発された抗肥満薬には副作用がある可能性があり、肥満の治療に安全で効果的な新しい治療法が求められています。
人間の腸内にはおよそ1000種類、100兆個もの細菌が生息しており、宿主との共生関係を維持し宿主の代謝に重要な役割を果たしています。プロバイオティクスの補給によって腸内細菌叢の組成を調節し肥満を治療する研究も発表されています。
Minji Sohn等は、韓国の発酵食品から分離したプランタルム菌(L. plantarum LMT1-48)の抗肥満効果を報告しています。
彼らのランダム化二重盲検プラセボ対照臨床試験では、肥満指数 (BMI) が 25 ~ 30kg/m2 のボランティア 100 名をランダムに割り当て (1:1)、試験群はプランタルム菌(1 × 1010 CFU)を含有するカプセル、プラセボ群はマルトデキストリンのカプセルを、それぞれ1日1回2カプセルを12週間摂取しました。
試験群は、プラセボ群と比較して体重、BMI、腹囲のレベルが有意に減少しました。さらに、腹部の内臓脂肪と皮下脂肪も大幅に減少しました。
図2は、プランタルム菌の摂取は過体重の被験者に有効であり、抗肥満症治療の可能性を示唆しています。
3)プランタルム菌は、動脈硬化を予防し、全身性炎症を軽減します
動脈硬化が進むと脳梗塞、心筋梗塞の発症リスクが増します。動脈硬化は血管内皮の機能低下から始まると考えられ、FMD検査によって動脈硬化になる一歩手前の血管内皮機能状態を知ることができ、将来の脳梗塞や心筋梗塞を予防できます。
Mobin Malik等は、冠動脈疾患患者にプランタルム菌(L.plantarum 299v)を摂取させることによって、内皮依存性の血管拡張が改善され、全身性炎症が軽減されたと報告しています。
試験は冠動脈疾患が安定している20人の男性が、プランタルム菌(2×1010CFU)を含む飲料を1日1回、6週間にわたって摂取することにより行われました。血管内皮機能は、上腕動脈血流媒介拡張(FMD)によって測定されました。結果は、図3に示す通り上腕FMD%は、6週間のプランタルム菌摂取後に有意に改善しました。
さらに、プランタルム菌の摂取によって、炎症性サイトカイン IL-8 および IL-12 の循環レベルが大幅に低下したことから明らかなように、全身性の抗炎症効果がもたらされました(図4)。
4)プランタルム菌は、過敏性腸症候群(IBS)症状を軽減します
過敏性腸症候群は、排便習慣の変化に伴う慢性的かつ再発性の腹痛または不快感を特徴とする機能性腸疾患です。 あらゆる治療の主な目的は、患者の生活の質を著しく損なう可能性がある腹痛を軽減することです。腹痛の主な治療選択肢には、低用量の鎮痙薬または抗うつ薬が含まれ、便通障害を改善するために下痢止め薬または下剤が投与されます。
しかし、多くの場合これらすべての選択肢は腹痛の軽減には期待外れのままです。
最近、症状の発症時の腸内細菌叢の乱れが強調され、それを改善するプロバイオティクスを治療目的で使用することが議論されています。プロバイオティクスはまた、サイトカインと細胞環境を炎症促進状態から抗炎症状態に変化させることによって、胃腸の免疫を調節します。
Philippe Ducrotté等は、プラセボ対照試験によってプランタルム菌(L. plantarum 299v) が、過敏性腸症候群患者の症状、特に腹痛や膨満感を軽減できるプロバイオティクス株であることを実証しました。
5)プランタルム菌は、2型糖尿病を予防します
2型糖尿病の治療は現在、ライフスタイルの変更と投薬によるインスリン抵抗性の軽減に重点を置いています。しかし、現代の治療法で適切な代謝制御を達成することは困難であり、多くの患者は最終的に満足のいく反応を示せません。
Mi-Ra Oh等による最近の動物研究で、韓国キムチから分離されたプランタルム菌(L.plantarum HAC01)の投与により、2型糖尿病マウスの血糖コントロールが改善されることが実証されました。この研究では、耐糖能障害が単独で認められた被験者 40 名を、8 週間にわたって、毎日プラセボ (n = 20) または プランタルム菌を摂取するグループ(n = 20)に無作為に割り当てました。主要評価項目は食後血糖値の変化で、副次評価項目は HbA1c、腸内微生物叢組成、糞便短鎖脂肪酸 などの評価でした。
プランタルム菌を摂取したグループでは、プラセボグループと比較して食後血糖値および HbA1c レベルの大幅な低下が見られました。図6にベースライン値から 8 週目までの HbA1c レベルの変化 (%) に対する プランタルム菌摂取の効果を示します。
この臨床研究は最近の動物研究の結果を確認し、8週間のプランタルム菌摂取が前糖尿病患者のプラセボと比較してHbA1cレベルを有意に改善したことを実証しました。
6)プランタルム菌は、認知機能を高めます
プロバイオティクスは、腸と脳の軸を介して認知やストレスなどの精神的健康に影響を与える可能性があります。
Gunilla Önning等は、健康だがストレスを受けた人を対象としたプラセボ対照研究で、プロバイオティクス治療群には、プランタルム菌(Lactiplantibacillus plantarum HEAL9)1010 CFU含有するカプセルを、プラセボ群にはトウモロコシデンプンを含有する同一の外観を持つカプセルを 、それぞれ1 日あたり 1 カプセル、12 週間摂取した後、ストレス、認知、気分、睡眠の測定値が調査しました。
この研究の主な結果は、プラセボと比較して、プランタルム菌摂取後の認知能力、特に記憶機能にプラスの影響があることを示しました。最も重要な結果は、単語想起テストにおいて、プランタルム菌の摂取によりプラセボ群と比較して作業記憶が改善されたことです。
プロバイオティクス治療群の平均精度 (%) は、ベースラインの 42.8%から 12週間後の 49.3% まで大幅に増加しました (p = 0.003)。対照的に、プラセボ群では平均精度%が46.35%から43.65%に減少し、両方で群間の有意差が観察されました(p<0.001)。
7)プランタルム菌は、鉄の吸収を促進します
プロバイオティクス株プランタルム菌が食事研究において鉄の吸収を大幅に増加させることが以前に示されています。 アスリートの健康、パフォーマンス、回復を最適化するためのプロバイオティクスサプリメントの使用は、最近、国際スポーツ栄養学会によって検討されました。
Ulrika Axling等は、2週間にわたってプランタルム菌(Lactobacillus plantarum 299v:1010 CFU)プラス20 mgの鉄(フマル酸第一鉄) を摂取するプロバイオティクスサプリメント群と、 20 mg の鉄単独で摂取する対象群を比較して、エルゴメーター サイクリング テストによって評価された鉄の状態と身体的パフォーマンスを比較しました。試供品はカプセルで供与しました。
フェリチンは体内で鉄の量を調整しているタンパク質です。血中フェリチン濃度が低い場合、鉄が少なくなっている(鉄欠乏性貧血)状態か、肝機能障害に伴い鉄が過剰にある状態のどちらかが疑われます。鉄の吸収に関する結果は図8に示します。
この研究では、プランタルム菌を低用量の鉄と組み合わせて摂取すると、腸の鉄吸収の効果が高まり、貧血ではない鉄欠乏女性アスリートの身体パフォーマンスの改善につながることを示しています。
引用文献
(注)それぞれの研究結果は菌株特異性であり、プランタルム菌一般に普遍的性質であるか否かについては議論のあるところです。
大阪大学大学院工学研究科
生物工学専攻高分子バイオテクノロジー領域
特任准教授・博士(医学)山根拓也
アロニア(Aronia melanocarpa)には健康維持のための有益な効果が現在までによく研究されており、非臨床試験においては神経変性疾患に対する効果についての研究も始まっています。例えば、2021年と2022年に発表された論文ではアロニアから抽出されたシアニジン3-O-ガラクトシドが、自然老化促進マウスにおける認知機能障害を緩和することが報告されています。これらの研究では、SAMP8マウスという加齢に伴って認知機能障害を起こすモデルマウスをアルツハイマー病の自然発症モデルとして用いています。SAMP8マウスはアミロイド前駆体タンパク質(APP)の過剰産生によって約8 ヵ月齢で学習・記憶障害を発症することが分かっています。
アルツハイマー病は、最も一般的で進行性の神経変性疾患であり、生活の質を破壊し、莫大な経済的コストを伴います。世界中で5,500万人がアルツハイマー病やその他の認知症を患っていると推定されており、認知症患者の60~80%がアルツハイマー病であることが報告されています。そのため、アルツハイマー病の発症を予防し、進行段階へ入るのを食い止める手段を見つけることは非常に重要だと考えます。最近、アルツハイマー病における果物や野菜の神経保護作用について盛んに研究が行われています。
今回、私たちは家族性アルツハイマー病モデルマウスを用いてアロニア果汁摂取における効果について検討を行い、NSFジャーナル誌(Official Journal of the Society of Nutrition and Food Science)に掲載されましたので、その研究内容をご紹介します。
結果① 毎日のアロニア果汁摂取はアルツハイマー病モデルマウスの空間作業記憶の低下を改善した
アルツハイマー病モデルマウスのワーキングメモリーに対するアロニア果汁摂取の影響を調べるため、2週齢でアロニア果汁摂取を開始してから84日後に、アルツハイマー病モデルマウスではない群(WT)、水を飲むアルツハイマー病モデルマウス群(5XFAD)、アロニア果汁を飲むアルツハイマー病モデルマウス群(5XFAD-AJ)についてY迷路試験の成績を調べました。その結果、図1に示すように5XFADの変化率はWTに比べて有意に減少したが、アロニア果汁を毎日摂取する5XFAD-AJはWTと同程度の変化率を示しました。5XFADマウスではアミロイドの沈着は生後2ヵ月から始まり、Y迷路試験でのパフォーマンスで判断される空間作業記憶は生後4ヵ月で有意に障害されることが知られている。今回の研究では、5XFADマウスのアルツハイマー病発症初期段階に対する毎日のアロニア果汁摂取の影響を生後2週間から12週間にわたって検討したわけですが、毎日アロニア果汁摂取していない5XFADマウスのY字迷路試験でのパフォーマンスは落ちていきますが、毎日アロニア果汁摂取した5XFAD-AJマウスではY字迷路試験でのパフォーマンスはアルツハイマー病モデルマウスではないマウス(WT)で見られるパフォーマンスを維持しています。このことはアロニア果汁を毎日摂取することによってアルツハイマー病発症が予防され、空間作業記憶が障害されないことを意味しています。
結果② 毎日のアロニア果汁摂取はアルツハイマー病モデルマウス大脳のアミロイドβ蓄積を抑制した
大脳におけるアミロイドβ(Aβ)蓄積に対するアロニア果汁摂取の影響を調べるために、Aβに対する特異的抗体を用いた免疫組織化学によってAβ沈着を測定した。図2に示すように、5XFAD-AJマウスの脳では、5XFADマウスに比べてAβ斑の数が減少していました。5XFADマウスの脳ではAβ斑の沈着が生後3ヶ月でWTマウスと比較して顕著に観察されましたが、毎日アロニア果汁を摂取摂取した5XFAD-AJマウス脳におけるAβ斑の沈着を緩和することができました。この結果は、アロニア果汁を毎日摂取することによって空間作業記憶が障害されない結果①を支持するものと考えています。
結果③ アロニア果汁は5XFADマウス脳におけるδ-セクレターゼ活性増加を抑制した
哺乳類の脳では、δ-セクレターゼというアミロイド前駆タンパク質(AAP)を分解する酵素がAAPの断片化とAβ産生に重要な役割を果たしていることが報告されています。δ-セクレターゼは正常マウスでは年齢依存的に活性化され、5XFADマウス脳では強く活性化されることが知られている酵素です。そのため本研究では、マウス脳におけるδ-セクレターゼ活性に対するアロニア果汁の影響を調べることにしました。その結果、5XFADマウスの脳におけるδ-セクレターゼ活性はWTマウスと比較して有意に高いことが明らかとなりましたが、アロニア果汁を摂取した5XFAD-AJマウスではWTマウスと同レベルでした(図3)。
結果④ アロニア果汁中のδ-セクレターゼ活性阻害物質を同定した
アロニア果汁中に含まれるδ-セクレターゼ活性阻害物質を同定するためにカラムクロマトグラフィーを用いて分画を行い、5つのフラクションを得ることが出来ました。その中の5番目のフラクションがδ-セクレターゼ活性を阻害したのでこのフラクションの中に阻害物質が含まれていることが予測されました。そこで、このフラクションをLC-MS/MSという液体クロマトグラフィーで分離した物質の質量を測定できる機械で分析を行うことにしました。その結果、3つのケルセチン誘導体が同定されました(図4)。
すなわち、ケルセチン3-O-ルチノシド(ルチン)、ケルセチン3-O-ガラクトシド(ハイペロシド)、ケルセチン3-O-グルコシド(イソケルセチン)です。興味深いことに、ケルセチンとこれら3つのケルセチン配糖体のアルツハイマー病モデル動物に対する有益な作用が報告されています。老化したアルツハイマー病モデルマウスにケルセチンを3ヵ月間腹腔内投与すると、アミロイドβの蓄積が改善し、空間学習と記憶が改善します。また、ルチンはヒト神経芽腫細胞におけるAβ42誘発細胞毒性を減弱させます。さらにハイペロシド混合食を9ヵ月間摂取すると、アルツハイマー病モデルマウスの空間学習と記憶が改善します。イソケルセチンの脳室内投与は、アルツハイマー病モデルラットの学習・記憶障害を予防します。一般に、食餌性のフラボノール配糖体は、まず酵素的に加水分解されてアグリコンが遊離し、そのアグリコンが腸管上皮細胞に入り込むと提唱されています。つまり、ケルセチン3-O-グルコシドはケルセチンとして吸着され、全身循環に入る前に肝臓でグルクロン酸と抱合され、ケルセチン3-O-グルクロニドとなります。ケルセチン3-O-グルクロニドは血液-脳関門(BBB)を通過することが報告されていますが、一方で極性のケルセチン3-O-グルクロニドは血液-脳関門(BBB)への透過性が低いとの予測もあります。これらの先行研究は、本研究で示されたアルツハイマー病モデルマウスに対するアロニア果汁の有益な効果が少なくとも部分的にはアロニア果汁中のケルセチン配糖体によるものであることを支持しています。
本研究のまとめ
アルツハイマー病を回復させる有効な方法はなく、少なくとも病気がある臨界レベルを超えて進行した後にアルツハイマー病の進行を止める方法はありません。したがって、アルツハイマー病を初期の段階で抑える手段を見つけることが重要です。本研究では、アルツハイマー病の動物モデルにおいてアロニア果汁摂取による予防効果が観察されました。しかし、アロニア果汁中には多くのポリフェノールが含まれているので、アロニア果汁の有益な効果は少なくとも部分的にはアロニア果汁中のケルセチン配糖体によるものです。将来的には、アロニア果汁はヒトを用いた臨床試験結果や本研究のようなモデル動物を用いた研究データの蓄積により、機能性食品、栄養補助食品として広く認知されることが期待されます。
補足
認知機能の改善を測定する試験は色々ありますが、今回私たちはY迷路試験という方法を用いて予防効果の検討および評価を行いました。試験に用いたY迷路の写真を示します。マウスがY迷路内を進路探索(自発的交替行動)する際に、直前に入ったアームとは違うアームに入ろうとする習性を利用した試験です。違う3本のアームに連続で入るには少なくとも2回前まで侵入したアームを記憶している必要があり、これは作業記憶と考えられているため、この試験で認知能力を測定することが出来ると考えられています。
参考文献
【編集後記】
プランタルム菌は洋の東西を問わず野菜などの発酵に古くから利用されてきましたが、PubMedに登録された文献数の推移に見るように、プロバイオティクスとして研究され始めたのはごく最近です。人を対象とした研究成果を紹介しましたが、紙数の制限から一部しか紹介できませんでした。紹介できなかった文献はホームページの文献紹介/植物性ヨーグルトに掲載しています。
実は、プランタルム菌はホームメイド・ケフィアにも含まれています。今後プランタルム菌の研究が進むにつれて、ホームメイド・ケフィアやノンデイリー PLANTAのプロバイオティクスとしての働きがさらに明らかになるとお思います。
(編集子 中垣剛典)
Volume 30 Number 1 (January 1. 2024)
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