Volume 24.Number 1(February 1.2017)
記事抜粋
天使大学 看護栄養学部 栄養学科 特任教授
大久保岩男(医学博士)
アロニア果汁の機能性効果
山根ら(14)はアロニア果汁の高血糖抑制効果を調べるために、重度の肥満と高血糖を有するマウスにアロニア果汁を飲ませました。飲用開始から1週間で血糖値と体重が有意に減少し、飲用後28日後に脂肪組織重量の減少と小腸でのDPP IVおよびα-グルコシダーゼ活性の阻害が認められ、またこのときGIPの発現減少とGLP-1の発現増加が起こり、さらに血中インスリン濃度は減少していることが確認されております。これらの結果は、アロニア果汁を飲むことによって、肥満と高血糖が改善し、これらの改善効果はDPP IVおよびα-グルコシダーゼの阻害によって起こることが明らかとなったとしております。
このようにアロニア果汁自体によるDPP IVおよびα-グルコシダーゼ活性が阻害されるのか否かを調べました(図3)。
その結果DPP IVおよびα-グルコシダーゼ活性は有意の差をもって阻害されることが明らかとなりました。さらに,血圧の上昇に関わるACE活性阻害も示され、アロニア果汁はヒトの健康に寄与する機能性成分が含まれることが示唆されました。
そこで、これらの報告と図3の結果を基に、アロニア果汁を飲用することによって、血糖値の上昇が抑制されるか否かの確認試験を行いました。
アロニア果汁飲用による血糖値上昇抑制効果
糖尿病やその他の重大な疾患がなく、かつBMIが30未満の健常人(男性19名、女性18名)に参加していただきました。血糖値上昇抑制効果確認試験は天使大学研究倫理委員会の許可のもとに行いました。血糖値上昇抑制効果確認試験では、アロニア果汁100mlに50mlのミネラルウォーター(市販品)を加え全量150ml(アロニア果汁)とし、対照としてミネラルウォーター150mlを飲んでいただきました。手順としては、ミネラルウォーターを第1日に、2~7日の間隔を空けて、アロニア果汁を飲んでいただきました。まず、空腹時血糖値を測定後、直ちにミネラルウォーターまたはアロニア果汁を飲んでいただき、その30分後に血糖値を測定後、市販の白飯(1パック約200g,295kcal/パック)を5分以内で、食べていただきました。2回目の血糖値測定時をスタートとし、その後30分、45分、60分、75分、90分、120分および150分に血糖値測定を行い、白飯を食し始めた時間を0分とし、その時点での血糖値を100%とし、血糖値の変化(変動)を観察し、図にしました。
その結果を図4A〜Cに示しました。この図ではアロニア果汁を飲んだ場合、女性では30分、45分、60分、75分、90分、120分および150分において、ミネラルウ
ォーターを飲んだ場合と比較して、有意差を持って、血糖値が低下しておりました。男性では30分、45分、60分、75分、90分において、有意差を持って、血糖値が低下しておりました。男性と女性で得られた数値を合算した結果を見ますと、やはり30分、45分、60分、75分、90分、120分および150分で有意差を持って、血糖値が低下しておりました。
さらに,曲線下面積(Area under the curve: AUC)を計算してみました。この方法は薬剤の血液中濃度を経時的に測定し、その効果を見るために用いられる方法ですが、このAUCを計算し比較してみますと、図5に示しました様に、男性,女性および男性+女性の全てにおいて,AUC値が有意の差を示しました。
これらの結果は、アロニア果汁を飲んで、その後30分間後に白飯を食した場合、ミネラルウォーターを飲んで白飯を食した場合と比較すると、アロニア果汁が当然上昇すべき血糖値の上昇を抑制したことになります。
この様に、アロニア果汁が血糖値の上昇抑制を示したのですが、現時点ではまず、アロニア果汁中に含有されているシアニジン、シアニジン3-グルコシドおよびシアニジン3,5-ジグルコシド(6)がDPP IV活性を阻害する機能性成分として考えられます。また、図3に示しましたが、α-グルコシダーゼ活性も阻害されることから、小腸粘膜細胞に存在するα-グルコシダーゼ活性を果汁中の未知の機能性成分が阻害し、結果として血糖値上昇抑制が起こったと考えられます(14)。
また、山根ら(14)はアロニア果汁を重度の肥満と高血糖を有するマウスに飲ませませたところ、飲用開始から1週間で血糖値と体重が有意に減少し、飲用後28日後に脂肪組織重量の減少と小腸でのDPP IVおよびα-グルコシダーゼ活性の阻害が認められたとしております。今回のアロニア果汁のヒトでの血糖値上昇抑制効果は短期間(1回飲用)での確認試験ではありますが、山根ら(6、14)の結果を支持するともの考えられます。 アロニア果汁中には健康に有益な機能性成分が含まれることが示されてきていますが、今後研究が発展し、種々の機能性成分も同定され、それら成分がヒトの健康維持にさらに寄与することが 期待されます。
Volume 24 Number 1 (February 1. 2017)
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