ケフィアニュース

Volume 22.Number 1(March 1.2015)

記事抜粋

アロニアジュースは血糖値の上昇を抑えます

北海道大学大学院薬学研究院 特任講師

山根拓也 博士(医学)

第二章 血糖値上昇抑制効果のメカニズム

静脈血漿のグルコース濃度すなわち血糖値が空腹時に126mg/dL以上または経口ブドウ糖負荷後2時間経過したときの血糖値が200mg/dL以上である場合には糖尿病型と判定されます。一方、空腹時血糖が110mg/dL未満でかつ経口ブドウ糖負荷後2時間経過したときの血糖値が140mg/dL未満である場合には正常型と判定されます。さらに糖尿病型にも正常型にも属さない空腹時血糖110mg/dL以上、126mg/dL未満の場合には境界型と判定され、正常型でも空腹時血糖が100〜109mg/dLの場合には正常高値となります(図1)。

食物を摂取したときに糖質は消化管内で分解・吸収され血糖値が上昇しますが、このときに血糖値を下げようとして、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。過食や早食いなどインスリンが大量に分泌される食生活を続けると、遺伝的に糖尿病になりやすい体質の人の場合には、インスリンを分泌する能力が低下してしまいます。さらに運動不足などで肥満が進行すると、インスリンが効きにくくなり、血糖値を下げる効果が減少します(図2)。

最近、血糖値抑制効果のメカニズムとしてジペプチジルペプチダーゼIV阻害効果によるものが明らかとなり、いくつかの薬も使用される様になって来ました。図3にこのメカニズムについて示しました。

ジペプチジルペプチダーゼIVはグルカゴン様ペプチド1や胃抑制ペプチドといったインクレチン編者註参照)と呼ばれるタンパク質を切断することで、インシュリンの産生を阻害します。ジペプチジルペプチダーゼIVの持つ酵素活性を阻害するとインクレチンの切断が起きないため、インシュリンが産生され、血糖値の上昇が抑制されます。いくつかの食品あるいは食品のプロテアーゼ消化物中にジペプチジルペプチダーゼIVを阻害する物質が含まれていることが報告されています。表2にそれらをまとめました。

サーモンやツナの酸加水分解物やベリー類や大豆などに含まれるフラボノイドもジペプチジルペプチダーゼIV阻害物質となることがわかります。

また表3に現在使用されているジペプチジルペプチダーゼIV阻害薬についてもまとめました。

薬としてはこのようにいくつかが使用されていますが、食品によるジペプチジルペプチダーゼIV阻害については、どのような物質がどのように体内で働いて、その効果が発揮されているのかについては明らかになっていないことが多いようです。現在のところ特定保健用食品のようなエビデンスのしっかりした形での商品販売はされていません。アロニアジュースについてもどのような含有成分がどのようなメカニズムで、血糖値の上昇を抑制するのかは未だ解明されていません。

第三章 アロニアジュースによる血糖値上昇抑制メカニズム

では、アロニアの持つ病気の改善効果について、どのようなメカニズムでその効果が発揮されているのか、実際の研究内容について一例ですが、紹介したいと思います。

アロニアジュースは血糖値の上昇を抑制する効果を持っていますが、どのようなメカニズムで血糖値の上昇が抑制されるかについては、解明されていないのが現状です。私はジペプチジルペプチダーゼIV阻害成分がアロニアジュースに含まれているのではないかと考え、研究を始めました。精製したジペプチジルペプチダーゼIVとアロニアジュースを混合したところ、ジペプチジルペプチダーゼIVの酵素活性は阻害されました。この結果から、アロニアジュース中に含まれる何らかの成分により、ジペプチジルペプチダーゼIVが阻害されることが明らかとなりました。

さらに様々な分離法を用いてアロニアに含まれる成分を分離した結果、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害成分を含む分画は赤色の色素を含んでいることが明らかとなりました(図4)。

現在のところ、試験管内での実験ですので確定ではありませんが、このようなメカニズムでアロニアに含まれる何らかの成分が血糖値上昇抑制効果を発揮している可能性が出てきました。今後、さらに動物やヒトの体内で同様のメカニズムが起こっているかを検証していく予定ですので、結果がわかりましたら、再度皆様にケフィアニュースを通じてご報告させて頂きたいと思います。さらに、メカニズムについては上記の通りですが、どのような含有成分が働いているのかについても現在検討中です。

第四章 アロニアの持つ機能性

以上のようにアロニアにはたくさんの効能があり、これからどんどんそのエビデンスが明らかになってくると考えられます。アロニアジュースはあくまで食品ですから、病気にならないための予防として飲用するのが一番いいのではないかと思います。今回ご紹介した血糖値を下げる作用については、血糖値が正常高値や境界型の範囲にある方々がアロニアジュースを飲用することで正常値を維持できるのであれば良いのではないでしょうか。また、いまは正常範囲内だけどという方にも糖尿病予防として飲用いただく価値はあると思います。さらに、現在進めている別の研究では内臓脂肪を減らす効果や、腸内細菌叢を改善する効果など、アロニアの新しい機能性が分子レベルで解明されつつあります。このような研究の結果についても、今後皆様にご紹介できればと考えております。

Volume 22 Number 1 (March 1. 2015)
タイトルをクリックして全文を読むことが出来ます。