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更新2012.2.1

 

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委託研究

花粉症とホームメイド・ケフィア

大阪大学医学系研究科   白井 文恵   
大阪大学微生物病研究所 湯通堂満寿男   
はじめに
 近年、日本や他の先進国において、スギ花粉症やダニアレルギーをはじめとした様々なアレルギー疾患が増加してきた。これは、もちろん、アレルゲン(アレルギーの直接の原因となる物質)の増加が1つの原因であることは疑いがない。例えば、全国で山林を大規模に伐採して、その後にスギだけを多数植林したため、スギ花粉の量が増えたことや、あるいは、建築材料や家屋の構造の変化によって気密性が高まり、ダニやカビなどが増えやすくなったことなどを挙げることができる。しかし、アレルゲンの増加で全てを説明することはできない。スギの木がたくさんあって、花粉の量が多くても花粉症の人がほとんど見られない国や地域も存在するのである。従って、アレルゲン以外の何かがアレルギーの発症に大きな役割を果たしていることは明白である。
 このアレルゲン以外の何かについては、免疫学者をはじめとした多くの研究者によって精力的に調べられ、いろいろな説が出されているが、残念ながらまだはっきりとした結論は得られていない。人種あるいは遺伝的背景の差異や、ディーゼルエンジンの排気微粒子に代表される環境汚染などもその候補になっている。その中で、現在もっとも有力視されているのは、皮肉にも、衛生面の向上と医療の発展によってもたらされた感染症の減少が原因であるという説である。どうして感染症の減少がアレルギーに結びつくのかを理解してもらうには、免疫のことを少し説明する必要があるだろう。
花粉症の人は免疫グロブリンIgEの量が多い
 免疫は、読んで字のごとく、疫(細菌やウイルスなどの病原微生物によって引き起こされる病気)を免じる、つまり、病原微生物などから生体を防御するしくみのことである。ただし、免疫機構は、これは細菌だ、これはウイルスだということを認識して、それらだけを始末するのではない。単に、自分の体にあるものと同じかどうかということを判断し、異なるものを排除するしくみに過ぎない。従って、例えば、スギ花粉が体内に入ってきたときにも、それを排除するような反応が起こる。通常は、そのような反応が起こっても、外来の異物はうまく処理され、特に困ったことは起こらない。ところが、何らかの理由で歯車が狂うと免疫反応が異常になりアレルギー症状が現れることがある。
 それでは、アレルギー症状はどのようにして起こるのだろうか。これについて説明する前にまず断っておきたいことがある。実は、アレルギーにはいくつかの種類があり、それぞれ異なったしくみで起こることが分かっている。ここでは、それらのうち花粉症に代表されるI型アレルギーについてのみ述べることにする。
 このI型アレルギーについても、どうして歯車が狂うのかはっきりしたことは分かっていない。しかし、花粉症などのアレルギー患者でどのようなことが起こっているかについてはある程度明らかになっている。

花粉症の患者は、肥満細胞の表面に結合した多量のIgE抗体を持っている。

侵入してきた花粉がこのIgE抗体にくっつくと肥満細胞を活性化し、

ヒスタミンなどの物質を放出する。
これらの物質の働きによって花粉症の症状が現れる。
それは、花粉症の人ではそうでない人に比べて免疫グロブリンE(IgE)の量が多いということである。このIgEは、図1に示すように、肥満細胞の表面にくっついていて、侵入してきたアレルゲン(花粉)がこのIgEに結合すると肥満細胞を活性化し、その細胞からヒスタミンやロイコトリエンなど、いくつかの炎症性物質を放出させることが分かっている。そして、これらの物質の作用によって目のかゆみや鼻水といった花粉症の症状が引き起こされるという訳である。これらの事実から、狂っている歯車の正体、つまり、アレルギーの直接の原因はIgEを産生したり、調節するしくみの異常にあるのではないかと予想できる。
IgEの産生と調節のしくみ
 それでは、IgEの産生はどのように調節されているのだろうか。図2にはその産生・調節のしくみをごく簡単に示している。IgEに限らず、血液中に存在する主要な抗体であるIgGや目・鼻口腔粘膜に分泌される抗体であるIgAなどの免疫グロブリンの産生は、まず外界から侵入してきた異物を認識するところから始まる。その認識に関わっているのは、突起を四方八方に出している樹状細胞と呼ばれる免疫を担当する細胞(免疫細胞)の1種である。

外部から異物が侵入してきたとき、樹状細胞はそれを取り込んで、その一部を細胞表面に提示する。
ナイーブT細胞はそれと結合することによって情報を受けとり、Th1細胞あるいはTh2細胞に変化する。
Th1は細胞性免疫を、Th2はIgEやIgGなどの抗体産生に関わる液性免疫を活性化する。
 
 この細胞は、異物に出会うとそれを細胞内に取り込み、消化した後、その一部を細胞表面に提示する。そして、このような異物が侵入してきたという情報を別の免疫細胞(ナイーブT細胞)に伝える。すると、このナイーブT細胞はTh1、または、Th2と呼ばれる活性化されたヘルパーT細胞(介助役の免疫細胞)に変化する。活性化したTh1細胞とTh2細胞は異なった役割を担う。Th1は、例えばウイルスが体内の細胞に感染したときにその細胞を丸ごと殺してしまう細胞障害性T細胞を誘導し、Th2は、細菌など外来の異物に直接結合する抗体(IgGやIgEなどの免疫グロブリン)を作るようにB細胞を活性化する。前者を細胞性免疫、後者を液性免疫と呼ぶ。それでは、ナイーブT細胞がTh1細胞になるか、あるいは、Th2細胞になるのかは、何で決まるのだろうか。それは、樹状細胞からの情報を受けとる時に共同で作用する蛋白質因子(サイトカイン)の種類に左右される。IL-12と呼ばれるサイトカインが作用すればTh1に、IL-4が働けばTh2に変化する。通常は、これらのTh1細胞とTh2細胞はお互いに相手の活性化を抑えるサイトカインを出して、どちらか一方が多くなりすぎないようにバランスをとっている。ところが、花粉症などのI型アレルギーの患者では何らかの理由でバランスが崩れ、Th2が優位になり、IgEの量が多い状態になっていると解釈されている。花粉症でTh2が優位になっている理由としては、Th1、つまりは細胞性免疫を誘導する刺激が減少していることが考えられる。細胞性免疫を誘導する刺激は、ウイルスの感染や結核菌のように細胞内で増える細菌の感染などであるが、戦後、これらの病原微生物による感染症が急速に減少してきたことはよく知られた事実である。これらのことが、前述したように「感染症の減少がアレルギー増加の原因ではないか」と疑われている理由である。
花粉症に対するケフィアの影響を調べる
 もし、微生物に感染しないことがアレルギーの原因になっているのであれば、人工的に感染させればアレルギーを治すことができるかもしれないという考えが浮かぶ。実は、このようなことを考えて、実際に治療をめざしている研究者もいる。もちろん、病気を起こすような病原体を使う訳にはいかないので、例えば、結核のワクチンを注射したり、ヨーグルト中の乳酸菌を食べてアレルギーが改善されるのかどうかといったことが調べられている。今までのところ、このような試みが花粉症に劇的に効いたという話は聞かないが、ある程度の効果があったという話はしばしば耳にする。特に、体に大きな苦痛を与えない方法で花粉症が改善されるのであれば願ってもないことであろう。今回、我々は、「ホームメイ・ドケフィア」を用いて作ったヨーグルト様の発酵乳を食べることによってアレルギーが改善されるかどうかを調べたので、その結果を紹介する。
 ケフィアはコーカサス地方の伝統的発酵乳であるが、日本で市販されているホームメイド・ケフィアは、カナダのローゼル社がケフィアから6種類の乳酸菌と1種類の酵母を分離して乾燥顆粒状にしたものである。食用にするときは、1包分の顆粒を1リットルの牛乳パックに入れ、25℃前後で1日発酵させてヨーグルト状にする。それ以上は何の処理もしないので、この発酵乳の中には非常に多くの生きた乳酸菌が存在している。
 実験は、スギ花粉に対するIgEの血液中濃度が高く、スギ花粉症であることが分かっている20歳以上の男女14名を対象とした。これらの14名を無作為に7名ずつ2つのグループに分け、そのうちの一方のグループは1日あたり300ミリリットルのホームメイド・ケフィア(以下の実験については、単にケフィアという言葉を用いることにする)を、残りのグループは1日あたり300ミリリットルの牛乳を、3週間連続して摂取 してもらった。そして、ケフィアあるいは牛乳を摂取する直前、3週間の摂取直後、及び、さらに3週間経った後に採血し、アレルギーに関係した様々な測定を行った。調べた項目は、1)各種サイトカイン(IL-4、IL-10、IFN-g)の濃度、2)血液中の全IgEの濃度、および、3)花粉症の自覚症状についての評価である。これらの検査の結果が、ケフィアを摂取した場合と牛乳を摂取した場合で、違ってくるのかどうかが注目する点である。なお、本実験を開始したのは4月中旬で、関西におけるスギ花粉の飛散はそろそろ終期にさしかかる頃であった。
ケフィアはIgEの産生を抑制した
 調べた項目のうち、1)の各種サイトカイン濃度は、図2で説明したTh1およびTh2細胞の量や活性に変化があるかどうかを調べようとした実験である。Th1はIFN-gを、Th2はIL-4とIL-10を産生している。しかし、IL-4とIL-10の血液中の濃度は非常に低く、ほとんどの被験者で測定感度以下であった。これらについては、今後、別の方法を検討する必要があるだろう。一方、IFN-gについては、血液中に充分測定可能な量が存在しており、ケフィアの影響を調べることができた。

スギ花粉症の患者14名を7名ずつ2つのグループに分け、
それぞれ、ホームメイドケフィアまたは牛乳を3週間連続して摂取してもらった。
そして、摂取直前、3週間の摂取直後、さらに3週間経った後に血液を採取し、
IFN-γ量の測定を行った。ケフィア摂取グループでは、IFN-γ量が増加していた。
 図3に示すように、牛乳摂取グループでは血中IFN-γ濃度に大きな変動はなかったが、ケフィア摂取グループでは明らかな上昇が認められた。実は、IFN-γTh1細胞以外にNK細胞などによっても産生されているので、図3の結果が全てTh1の増加によるのかどうかは分からないが、少なくともケフィアが免疫能を大きく活性化する働きのあることが推測できる。
 また、4)の血液中の総IgE抗体量にも明らかな差が認められた。

図3と同様に血液を採取し、IgE抗体の総量を測定した。
ケフィア摂取グループでは、IgE抗体量が減少していた。
 図4に示すように、牛乳を摂取したグループでは、血液中の総IgE抗体量の上昇が見られたが、ケフィアを摂取したグループでは、IgE抗体量が低下していた。実験前のIgE抗体量が比較的低かった人たちでは、ケフィアによるIgE抗体量の抑制傾向がさらに顕著であった。上述のように、花粉症では、IgE抗体量の寡多が重要な鍵を握っているが、これらの結果は、ケフィアが花粉症の改善に有望であることを示唆している。
 そうであるなら、ケフィアを摂取したことで花粉症の症状が改善されたかどうかが重要な点であるが。残念ながら、この実験を行ったのが花粉飛散の終期であったため、ほとんどの人の症状が自然に治まる時期に当たり、3)の自覚症状評価でケフィアの影響は判断できなかった。今後、是非とも検討しなければならないことの1つである。
まとめ
 以上の結果は、ケフィアが花粉症の改善に利用できる可能性を示している。しかしながら、この実験はまだ緒に就いたばかりであり、最終的な結論を得るまでには多くの実験が必要である。例えば、ここで紹介した実験は人を対象にして行ったものであるが、もっと詳細な解析を行うには、試験管内で培養したいろいろな種類の免疫細胞を用いてケフィア乳酸菌の影響を調べることが不可欠であると思われる。実は、我々も、抗原提示細胞の1つと考えられていたマクロファージ系の培養細胞に種々のケフィア菌を加えるとどのように反応するかを調べたのであるが、まだ、ここで紹介できるような結果は得られていない。これも含めて、今後の展開が待たれるところである。また、今回の実験では、スギ花粉飛散の終期に実験を行ったため、症状の改善があったかどうかの評価は困難であった。今後は、スギ花粉の飛散前にケフィアを摂取しておき、花粉症が改善されるかどうかを検討することが不可欠であろう。
【著者略歴】
白井文恵:千葉大学看護学部卒業。保健師を経て、大阪大学医学系研究科助手、現在に至る。医学博士。(主な研究分野)感染制御に関する研究。(主な著書)スタンダード微生物学(分担)文光社。
湯通堂満寿男:大阪大学理学研究科博士課程修了。大阪大学微生物病研究所助手を経て、現在、助教授。理学博士。(主な研究分野)細胞がん化機構の研究。(主な著書)がんと遺伝子(分担)化学同人、ウイルス実験プロトコール(分担)メディカルビュー社、標準微生物学(分担)医学書院、生命倫理と先端技術(分担)実教出版。

ケフィアニュース Volume12. Number 1.(November 1. 2005 )より転載

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